Interview009

京都大学大学院経済学研究科 研究員

玉沖 貴子さん

―今回は、京都大学・自然資本経営論講座で研究員としてご活躍の玉沖さんにお越しいただきました。関東ご出身とお聞きしましたが、京都大学に進学されようと思ったのはどういうキッカケですか?
 千葉県出身ですが、実家を出て一人暮らしをして自由を謳歌したい、という思いで関西の大学を受験した、という極めて単純な話でした。

 —大学で経済学を学ばれた訳ですが、なぜ経済学だったのでしょう。
 なんとなく変化することに興味があって、昔から為替が動くところとか、わかりやすく変化が見えるところが好きで、経済はそういう意味で変化がわかりやすいというか。けれども今の経済がなんかおかしいというのは、昔の友達にいわせると中学生の頃からどうもいっていたらしいです。実は、高校二年生までは理系を目指していました。一番最初は食料問題に興味があって農業部門に行きたかったんです。食料自給率とか、一番自分の身近なものにすごく興味があって、農学部をめざしていました。ところが、無機化学と数Ⅲ・Cに興味が持てず、点が取れない。経済学部でも農業経済という分野があることを知り、文系に転じました。環境問題に興味を持ったのは、ある日、模擬試験の問題で出題された文章に、「地球の大きさより人間の欲望が大きくなってしまっている」というような事が書いてあって、それがもう模試なんかどうでもよくなってしまうくらい自分にヒットしてしまったことがきっかけです。

 ―大学ではどのような勉強をされていたのでしょうか。
 例えば、ゼミの活動としてチームで論文を書くというプロジェクトがありました。そこでは放置自転車問題をやっていました。今では京都は貸し自転車なども整備されていますが、あのころは放置自転車が街中にあって、交通の妨げにもなっているし、景観的にもあまりよくなかった。自分も加害者であり被害者であり、すごく身近な環境問題でした。なにか壮大なテーマの理論的なことを書くよりは、身近で具体的な解決策を出せることのほうに興味がありましたね。

―大学を卒業されて、トヨタ自動車に入社されました。
 京都にいた影響だと思いますが、「日本発」にこだわる感覚が大学の四年間で強くなっていました。日本が持っている独自のコンセプトで世界とやりあっていける。そういう意味では、当時初代プリウスが発表されたタイミングでもあり、トヨタは日本発をやる企業だという印象を持ちました。トヨタでは調達部門に配属されました。私は、海外の事業体、特にアジアのタイなどをカバーしていました。日々、コンマ1円単位で価格交渉を行うようなシビアな世界でした。

―その後、トヨタを退社されました。
 三年間、トヨタには大変お世話になりました。ただ、実家が街の小さな税理士稼業だったこともあるかもしれませんが、大きい組織が逆に窮屈に感じる場面もありました。自分には、小さい組織の方が肌に合うかもしれないとの思いと、自分の力を試したいという思いも強まり、心機一転コンサルティング業に転じ、船井総研に転職しました。ここでコンサルタントとしての基礎を学んだ後、企業の環境問題の取り組みや、社会貢献活動等に特化したコンサルティング会社であるクレアンに呼んで頂き、すっかりコンサルタントが本業になった感があります。そして、一昨年お声をかけて頂き、母校である京都大学大学院経済学研究科の自然資本経営論講座で、研究員の職をいただく事になりました。

―自然資本経営論講座について教えて下さい。
 まさに「日本発」となる、世界で初めて「自然資本」と「経営」を結びつけた研究ユニットです。限りある自然資本を戦略的に経営し、単に節約するとか保全するとかいう発想ではなくて、あるべき新たなライフスタイルを生み出していく、というイメージです。これは、企業経営にも、自治体経営にも、国家経営にも当てはまる話で、壮大な挑戦ですが、人類が立ち向かうべき壁だと思います。これまで経済学は、自然資本の限界を織り込まずにいろいろなモデルを作っていると思うのですが、そこが何かそれこそパラダイムシフトしていかないと小手先の政策とか仕組みでは根本的には解決しないのではないかと思います。トヨタ時代でも常に最安値を求めて世界中のサプライヤーと交渉していましたが、そういった今のビジネスのシステムを続けていくと、果てしなく地球の境界線を超えていってしまうんじゃないかという問題意識があります。そこの問題に立ち向かう講座だとわたしは理解していて、それは高校の時の関心とすごく一致するなというのが一番のモチベーションと言いますか、思いです。

―自然資本経営論講座ではどのような仕事をされているのですか。
 今は講座の中で研究員の立場で参加しています。私たちは、現在大きく二つの軸で研究を進めています。一つは、自然資本経営の理論を作り上げていくところ。もう一つは、理論に結びつく実例、モデルケースを集めていくところ。理論と実践ケースを行き来しながら、いまだ誰もまとめあげていない「自然資本経営論」の核心に迫っていく、というのが講座の研究コンセプトになっていますが、私はその二つの軸のうち、実践ケースの方を集めさせていただくというお仕事をさせていただいています。

―来月11月29日に東京でシンポジウムを開催しますね。
 伊勢神宮をテーマに、日本独特の自然資本経営の方向感を分かりやすくまとめている映画「うみやまあひだ」の上映に始まり、先端をいくゲストの先生方の講演をします。また、私自身も発表をさせて頂く予定です。私の発表は、講座の中でケーススタディが担っている役割や意味といったところのご紹介、そして本当に仮説レベルなんですが、こんなことが要素として必要なんじゃないかというものの簡単なご紹介をさせていただいてフィードバックというか、皆さんと考えていくきっかけ作りというか、そういう投げかけをできたらいいなと思っています。

■シンポジウムの詳しいご案内はこちらのページをご覧下さい
www.kagurasalon.com/post/kyodai.html

玉沖 貴子さんプロフィール

たまおき たかこ
1980年千葉県生まれ。
2003年、京都大学経済学部卒業(環境経済学専攻)。
同年、トヨタ自動車株式会社入社。グローバル調達企画部に所属、タイをはじめとしたアジア地域での新車立ち上げプロジェクト等を担当。
2006年、株式会社船井総合研究所入社。大企業向け事業戦略策定支援などの経験。
2008年よりクレアンにてCSR分野のコンサルティングに従事。
現在、京都大学大学院経済学研究科自然資本経営論講座、特任研究員も務める。

シンポジウム公式サイト
www.econ.kyoto-u.ac.jp/natural_capital/detail