Interview012

株式会社ナチュラル・ハーモニー 代表取締役社長

河名 秀郎さん

―今回は、自然栽培のパイオニア、ナチュラル・ハーモニー代表の河名秀郎さんにお話しをお聞きします。読者の皆さんの多くは「自然栽培」という言葉を初めて聞く方もいるかと思います。
 農業の在り方は、大きく三つに分類できると思います。化学肥料・化学農薬を使う「一般慣行栽培(あるいは化学農法)」、有機肥料を使い、有機JAS法で定められた農薬使用可の「有機栽培」、そして肥料も農薬も両方使わない「自然栽培」の三つです。  通常、有機栽培と自然栽培は一緒のカテゴリーに考えられがちです。しかし、本質的には両者の考え方は全く違っていて、有機栽培はどちらかというと慣行栽培の延長線上にあると考えられます。その理由は、慣行栽培や有機栽培は料によって作物を育てていくという概念が主であって、自然栽培は肥料の力も本来は必要としないものなのだと考えるためです。そもそも植物は土の本来の力、地球の本来の力で育つものなので、何か人工的な力に頼らせるのではなくて、自ら育つ力を最適化していこうという価値観の違いが根底にあります。だから、化学であれ有機であれ、何かの代理の力である肥料を利用する農業と、それらを一切使用しない農業とは、大きく分かれると言えるのかなと思います。

―よく河名さんは、肥料の有無によって、その野菜が腐るのか、枯れるのかが分かれる、ともおっしゃっておられます。
 まず自然界の植物の成り立ちを観てみると、地球の歴史からみてみても、植物たちがその場所で枯れてそこで土になって次の命をつなげていくという循環で、今我々が触れている土も五億年くらいの歴史の結果であると言われていて、基本的に土は植物でできているわけです。時々火山灰のようなものが入ることがあったにせよ、植物たちがその土を作り上げて来たといえるでしょう。
 結果、その場に育む彼らにとって過ごしやすい環境というのがおのずと作られていて、その育つペースは人の思惑とは違ってとてもスローペースだったと思われます。だから、人はそのペースを早めるために肥料を入れていったのだと想像するのですが、そうすることでその場のバランスが崩れた。つまり、それまで自然が作った歴史が人間によって突如として崩されていった。その結果、虫やウィルスが介在することになった。不自然な状況に汚染された土から、植物たちがその異物を吸い上げる。それをウィルスや細菌、虫達が分解する。その過程が腐敗なのではないか、と私はにらんでいます。一方でバランスが保たれている土であれば、食物はごく自然の摂理に従って、腐らずに単に枯れて、あるいは発酵して土に戻る。
 けれども今一般的に食卓に並ぶ野菜たちのほとんどが枯れずに腐ってしまうタイプ。いつのまにか、野菜は腐ることが常識になってしまった。腐ることは、肥料を使う事によって自然の摂理を冒している結果なのでは?と捉えています。

―宮崎駿さんの「風の谷のナウシカ」という映画に腐界という話が出てきます。これは、人間が汚染した土を、植物が体内に取り込んで腐りながら浄化し、その森を虫達が守っている、というエピソードでした。これは近い考え方ですか?
 とても近い考えだと思います。私はあの映画を見て、宮崎駿さんはきっと自然栽培のことをご存じだったのではないか、と思ったほどです。
 あの物語は、腐る森や、胞子をまき散らす菌を人々が忌み嫌って焼き払おうとするが、主人公のナウシカだけがその意味を直感的に知っていた、という話でしたね。我々の目に不都合に映ることは、人間にとって不都合だということであって、でも自然界にとっては不都合なことではなくて、むしろ環境を元の状態に戻すための働きである。自然界にはそもそも都合も不都合もない。起こったことの報いでしかない。行為に対する作用と反作用だけの話だということなのかもしれません。

―腐ってしまう野菜を食事として取る事で、人の健康にも影響が連鎖するのではと想像してしまいますが、そのあたりはどうお考えですか?
 食べ物と人間の関係は、食べ物と腸の関係に直結してくると思っています。人は本来、食べ物を食べ、それらが腸で分解される過程で生理活性物質を合成し、それをからだは利用して生きています。もし、食べる前の素材の性質が腐敗していく性質を帯びているとしたら、腸の中に入ってもその発酵のプロセスをたどることなく、腐敗していくタイプの菌が働く場を作ってしまうのではないかと想像します。人は、腸内の菌を悪玉、善玉と分類し、悪玉を目の敵にします。しかし、実は菌には悪も善もなくて、純粋に腸に入ってきた原料が腐敗性であれば、それを分解するために腐敗性の菌が活躍する。ただそれだけの事ではないかと思うんです。
 腸に届いた原料に対してお腹の中でいかに処置するかが、自然の摂理に従って自動的に判断されていると思うのですが、いわゆる発酵型のタイプの原料は、お腹の中でも腐敗性の菌は働く余地がない、だから発酵系の菌がそれを分解し栄養を合成するという流れが生まれ、腐敗するタイプの原料にはそれに類する菌たちが働くという構図がお腹の中で起きているのではないかと。それは外と中とでそれほど大きく変わらないんじゃないかと思うのです。枯れていくタイプの原料はお腹の中で発酵系の菌との相性がいいと思うのですが、それは枯れるタイプの原料を瓶につめておくと自然と発酵するという経験則からも垣間見えてきます。逆に腐敗するタイプの原料を瓶に詰めておくと、自然と腐敗します。
 なので、おそらく善玉菌をいくら一杯口から流し込んだところで、私は腸内環境がさほど大きく変わるとは思えないんですよね。いわゆる菌の量ではなくて、食べ物が腐敗性か発酵性かによる影響の方が大きいように感じます。

―ナチュラル・ハーモニーのこだわりを聞かせてください。
 僕のテーマは、「そもそも人はどのようなものを食べるようにできているのか。それに合ってさえいれば、健全に生きることが出来る筈だ。」というのがメインにあります。
 でも世の中の食べ物をみていると、そもそもの姿をみることがほとんどなく、人間が効率を求めた結果いろいろ手を下しています。その挙句の果てが食品添加物でしょう。
 原料そのものが腐っていくものだとすれば、それはもう食としてふさわしくないものだと感じます。その観点から、発酵していく農産物・加工品などを探し出して、または自ら作り出して、本来人が食べるものが揃う店を確立したかった、というのがナチュラルハーモニーの本質です。

―お店は何年前からですか?
 最初はトラックの引き売りからでした。30数年前、25歳の時ですね。今は、主軸が自然栽培農産物の個人宅配事業で、全国4千名の会員がいます。また、店舗が3店。横浜と銀座と世田谷にあります。世田谷以外は、レストランも併設しています。
 八百屋なので野菜を中心にした品ぞろえで、加工品はナチュラルハーモニーの独自基準に満たされたもの=人が食べるべき要素をピックアップしているので、かなりレベルの高いセレクトショップになっていると思います。日配系の肉や牛乳、納豆、豆腐などというのは常時きちっと完備するというのは難しいので、週のこの日に入りますという形をとらせていただいていますが、食卓を形成する上で不都合はないと思います。
 また、主に横浜店を中心に、食だけでなく衣食住全般にラインナップが拡充しています。住宅や家具、衣類にシャンプー等の生活雑貨など、この三十数年間で生活全般に幅が広がってきました。

―最初、この事業を始めようとしたきっかけは何だったのでしょうか。
 私は、10代の時に姉をガンで亡くしました。若くて元気で聡明だった姉が亡くなった日の両親の悲しみを目にした時、自分は絶対に健康に生きよう、と心に誓ったのがはじまりだった気がします。
 でも、実は健康を追い求めていくと、かえって不健康になる、という事に気づきました。本当に健康になりたいなら、調和を求めるべきなのではないかと。そこから、自然農法へと行きついていったのだと思います。

―最後に、一言をお願いします。
 これからも、自然の調和に基づいた食べ物、自然のルールに反さない生き方、というものを皆さんと一緒に探し求めていけたらと思っています。神楽サロンでは、私のセミナーを定期開催しております。是非一度、足を運んでいただけると幸いです。お会いできる日を楽しみにしております。

河名 秀郎さんプロフィール

1958年生まれ。18歳の時に肥料や薬に頼らない自然栽培に出会い、農業修行と引き売りを経て、1986年ナチュラルハーモニーを設立。以来、自然食品店、レストラン、個人宅配などを展開し続け、生産者や消費者向けのセミナーでは、大自然を師と仰ぐ、自然のリズムに沿った生き方、暮らし方の普及に力を注いでいる。著書に「自然の野菜は腐らない」(朝日出版社)、「ほんとの野菜は緑が薄い」(日本経済新聞出版)、「野菜の裏側」(東洋経済新報社)、「世界で一番おいしい野菜」(日本文芸社)などがある。

『ナチュラル・ハーモニー』公式サイト
www.naturalharmony.co.jp